「パラリンピックの会場を、技術の力で満席にしたい」 レガシーを作り出す「100年企業とベンチャー」の共同開発

1918年の創業以来、事業を通じて世界中の人々の暮らしに貢献してきたパナソニック株式会社様。今年、創業100周年を迎える同社は、家電事業を中心に培った強みに、新たなビジネスパートナーの強みを掛け合わせ、さらなる成長に弾みをつけようとしています。その一つが、パナソニック株式会社とWHILLが共同開発中のロボット電動車椅子「WHILL NEXT」。2017年度には羽田空港での実証実験も行われ、幅広い注目を集めるこのプロジェクトの背景について、パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パラリンピック統括部の内田様、黒川様に伺いました。

 

内田 賀文様(パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パラリンピック統括部 部長) 黒川 崇裕様(パナソニック株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パラリンピック統括部 主幹)

パラリンピック会場を満席にしたい。それには技術の力が必要

内田 私は、オリンピック・パラリンピックのワールドワイド公式パートナーであるパナソニックとして、パラリンピック会場を満席にしたい、という強い思いがありました。オリンピックに関わる方々の尽力ももちろんですが、その思いをかなえるためには、障害のある方や高齢の方々が、安心・安全に移動できるような技術が必要です。同時に、そういった方々が移動するには、安心・安全に加え、「格好いい乗り物」でないと乗りたくならないだろうな、と思っていました。しかし、2020年までには限られた時間しかなく、自社ですべてをゼロから作り出すのは難しいとも感じていました。

そんな中、2014年に福祉関係の展示会でWHILLに出会い、これしかない、と思いました。初めての人でも簡単に操作でき、健常者でも一度乗るともっと乗っていたくなる。加えて、電動ということもあり、弊社の技術との協業もできるのではと思いました。

協業の一番のきっかけは、羽田空港にWHILLを導入し、モビリティが必要な人々の助けにしたいという思いをWHILLとパナソニックの両社が抱いたことだと思います。空港という、大勢のお客様が利用される空間では、走行する機体の安全性が強く求められます。WHILLというモビリティが走るためには、人や設備にぶつからないような安全性を担保する必要がありました。加えて、自律走行や、カルガモのように前の車椅子を追うような追従走行機能があると、空港スタッフの業務負担を軽減するなどの利点もあります。パナソニックには、病院で薬剤などを自動搬送するロボ「HOSPI(ホスピー)」で培った自律走行のノウハウがあり、ロボット電動車椅子の開発について、お互い「ぜひ、一緒にやりましょう」という話になりました。

 

「安心·安全」な走行と快適性を損なわないように

黒川 WHILLと弊社が最初に試作品を羽田空港に持っていったのは、2015年の12月でした。自動停止のデモを行ったのですが、正面の障害物だけではなく斜め方向の障害物の検知が困難、ガラスなどの透明な障害物が認識できないなど、多くの課題が見つかりました。空港で求められる安全性の高さを痛感すると同時に、さすがはパナソニックとWHILL、と言われるよう、真剣にやらなければという思いを新たにしました。今思えば、これが本当のスタートだったと思います。

また、安全性に加え、お乗りになる方の快適さも大きな課題でした。最初のWHILL NEXTは、障害物を検知すると、安全のためかなり余裕を持って停止する仕様になっていました。しかし、ショッピングモールなどでの実証を経て、その仕様では、車椅子に乗った人が自動販売機やATMなどに近寄れないという問題が明らかになったのです。安全が、お使いになる方の不満につながってはいけないと思い、現在は障害物を検知すると一旦はストップするけれど、そのあとは音と光で注意を促しながらぎりぎりまで「じわじわと」進むという仕様に変更しました。この、「じわじわ進む」技術は、HOSPIにもなかった機能なので苦労しましたね。

「WHILL」をパーソナルモビリティの代名詞に

内田 パナソニックは今年で創業100年を迎えますが、一方でWHILLは創業6年目です。約60人の従業員数ですが、色々な経歴の人が集まっており、新しいことにチャレンジしていてスピード感がある。60人の会社でしかできないことをやっている。こうした6年目の会社と、100年目の会社が組み合わさることで、お互いがないものを補い合い、新しい市場を取りに行けると考えています。

私は、「WHILL」という言葉をパーソナルモビリティの代名詞にしてほしいと思います。他社の話で恐縮ですが、「ウォークマン」のような。「パナソニックのウォークマンを買ったよ!」などと普通に言われることもありますが、そういうイメージです(笑)。

黒川 WHILLは今、約60人という従業員数ですが、まだスピード感を失っていない。突破力もあります。これからは、事業規模も組織も大きくなり、さまざまな課題にも直面すると思いますが、それをWHILLらしさで乗り越えていってほしいと思います。

内田 パナソニックは、2020年東京オリンピック・パラリンピックで「レガシー」を残したい、つまり新しいものを後世に残していきたい、と考えています。今回、WHILL NEXTという、自律走行・自動停止ができて、普段は車いすに乗らないような人々も乗るモビリティ、これはまさにレガシーだと思います。