町工場の職人たちを突き動かしたWHILLの情熱

今年創業40年を迎える株式会社 浜野製作所様は、板金加工や金型製作を基盤技術として、多種多様な業界の製品の設計開発、試作、量産、組立まで、一貫した製造も引き受けている町工場です。本格的な金属加工に用いる工作機械に加えて、3Dプリンターやレーザー カッターなどのデジタル工作機器を備えるものづくり総合支援施設「Garage Sumida」を運営しており、ベンチャー企業や研究機関など、独自のテクノロジーやビジネスアイデアを有しながらも、ものづくりに関する知見のない人々の製品開発を支援してこられました。

 

WHILLも浜野製作所の支援を受けたベンチャー企業の1つです。WHILL創業当初、製造や量産のノウハウがなかった創業メンバーにとっては、実際の製品を作るのも大きなハードルでした。試作にあたっては、浜野製作所の技術者の方々に設計図へのアドバイス、製造技術のコンサルティングをしてもらいながら、試作機をブラッシュアップさせていきました。今回は、Model Aの開発初期から関わりのあった浜野製作所の金岡専務取締役、小林営業企画副部長とWHILLのエンジニア平田の対談をご紹介します。

 

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金岡 裕之 氏

株式会社浜野製作所 専務取締役 CTO 設計開発部 部長

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小林 亮 氏(ファシリテーター)

株式会社浜野製作所 営業企画部 副部長

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平田 泰大

WHILL株式会社 研究開発部門 シャシー開発部 部長

 

日本の技術は試作に圧倒的なスピード感を持たせた

浜野製作所 小林(以下、小林):シリコンバレーで開発を始められたにも関わらず、日本での開発に切り替えられたと伺っています。日本で開発を行うようになった経緯を教えてください。

WHILL 平田(以下、平田):創業当初、我々はアメリカで開発していこうとしていました。電動車椅子の市場は、当時の調べでは日本が年間2万人、対するアメリカは55万人。市場の大きいアメリカに会社を建ててユーザーの多い環境で開発を進めていこうと決めましたが、思った通りの試作ができませんでした。やはりスピード感を持って試作を進めていくには、日本の技術力が必要だと思いました。そんななか、浜野製作所さんをご紹介いただき試作を進めてきました。

小林:実際に我々と一緒に開発をした感想をお伺いできますか?

平田:一番感じたことは、金岡さん筆頭に、現場の方々の生のフィードバックを3Dデータや図面を一緒に見ながらいただけることですね。作る前から「ここの溶接は難しい」とか「ここは熱が入りすぎちゃうね」とか、大体のことがわかってくる。僕たちの感覚からすると、図面を見て一度会話するだけで、そこで一回試作が終わってるんですね。フィードバックをもらって設計図を少し直して、実際にこれで試作をお願いしますと渡して作っていただくと、最初からバッチリなものが仕上がってくる。これって本当に日本以外では100%と言っていいくらいありえないのです。海外の場合、図面を出したら”その通り”以下に仕上げてきて、出来としては50点ぐらい。最初から組み付けに使えるということがまずないですね。僕たちも最初から設計や溶接の知識がしっかりとあったわけではなかったので、浜野さんのフィードバックは本当に貴重でした。

浜野製作所 金岡(以下、金岡):WHILLのエンジニアは、一緒にやっていく中でどんどん技術を身につけていったよね。最初は設計データも見よう見まねといった感じだったんだけど、うちと試作やっていくうちにだんだんと、図面の書き方などが「あ、わかってきたな」と。例えば、図面を見て「ここの穴、直径6mm空いてるけど何入るの?」とか聞くと、「シャフト(回転軸)が入ります」って。「6mmじゃ絶対入らないよ、こういう所は公差いれた方がいいよ」ってアドバイスするんですけど、そういうやりとりがだんだんと蓄積していって、最終的には通用する図面になっていったからね。

平田:本当にそこは育てていただきましたね。最初はアマチュアでしたので。

 

WHILLだからこそ町工場をここまで動かせた

金岡:でもWHILLさんの場合、バラバラの図面でなく最初から完成した組立図で依頼が来るから、最終型の察しがある程度つくんだよね。こちらもスピード感を持って対応できる。WHILLさんみたいなスタンスで相談に来る企業はそんなに多くはないね。設計から組み立てまで自分たちで全部行っているから、作り手の成長も製品の開発も速かったんだと思いますよ。

平田:自分たちで手を動かして、設計から組立まで。そこは僕たちも大事にしているスタンスですね。

金岡:逆に自分たちで手を動かさないと開発を進めていくにあたって、何がよくて何が悪かったかの判断がつかないんだよね。

平田:そうですね。例えば、自分たちで強度試験をして壊れた現物をよく観察すると、どこの溶接が弱かったのか、などがわかってきます。
浜野さんと一緒にやっていくと、そういった失敗に対する改善点のアドバイスもいただけるので、開発にスピード感と確実性を持たせることができました。

金岡:WHILLさんのスタンスは、我々にとっても一緒にやりやすかったですね。なかなか我々が説明しても相手先がわかってくれるとは限らないんですよ。でもWHILLさんの場合こちらの説明もわかってくれたね。デザインや機能上で譲れない部分があれば、こちらとしても違うアプローチの方法で改善を提案できる。やはり相互が同じ熱量で設計に関わっていたというところが、開発においてのスピードを上げていったのだと思うね。

小林:WHILLさんの試行錯誤はめちゃくちゃ速かったですよね。

金岡:速かったよ。Model Mの開発時は、WHILLさんはアメリカの厳しい基準で衝突試験を受けなければならなかったから、スケジュールもタイトだったね。試験しては壊して、データが来て、次はこれでって。1週間後に飛行機が飛びますって、そんな感じだったからね。

平田:浜野さんには本当にいろんなご迷惑をおかけしました。朝に電話して、午後に部品を持っていくとその場で溶接していただけるなど、あのスピード感は世界一だと思います。

金岡:WHILLさんから世界一と言っていただけたらありがたいなぁ。

小林:しかし、WHILLさんが町工場をここまで動かせているのが普通じゃないなと思いますね。おそらくそれは普通の依頼ではなくて、想いや情熱が我々「職人」を突き動かしていると思いますよ。特に金岡はおそらくお金だけでは動かないと思うので。

金岡:個人的に私自身が乗り物が好きだっていうのもあるね。あと、最初に話を聞いたときに「僕たちが作りたいのは車椅子じゃないです」という言葉に感銘を受けた。そう、「車椅子ではない、乗り物」。そこがやっぱり刺さったな。

量産前、Model Aはエンジニア自身の手で組み立てられた。組み立て作業は浜野製作所の方々にもご協力いただいていた。

 

量産の壁を超えていく工夫とは

小林:試作をなんとか乗り越えられて、台湾で量産をされていると思うんですけど、「量産の壁」ってあるじゃないですか?平田さん、あるいはWHILLのみなさんが感じた量産の壁というものと、そこを乗り越えていかれたWHILLさんなりの工夫みたいなものがあったら教えてください。

平田:やっぱり一番最初に苦労するのが品質で、想定していた品質で仕上がってこないというのが量産では起こり得るんですよね。試作の段階で浜野さんで作っていただいたクオリティを期待しても、量産だとその通りにはならないわけですね。乗り越えていった工夫としては、やはり現場に張り付いて根気よく説明することですね。エンジニアは足で稼がないといけない。これは量産をしていて思ったことですね。海外と日本の品質には大きな違いがあって、金岡さんとのハーモニーでできていたことは、一切ないんです。

小林:当たり前だと思っていたようなことが当たり前ではないということですね。そこは現地の人とのやりとりをされるんですよね?

平田:そうです。まさにコンセプトから説明しますね。士気を高めてモチベーションを我々と同じくらいにまで高めてもらうっていうことが大事なんですよね。

小林:今はもう台湾でチームWHILLみたいな形ができているんですか?

平田:そうですね。プライド持ってやってくれていると思います。僕たちの熱意がちゃんと伝えられているのかなと思いますね。作ったら作りっぱなしではなくて、きちんと売っている姿を見せていくというのも大事ですね。どうしても台湾の工場からだとユーザーの姿が見えにくいので、ポスターを作って持っていったり、何か受賞したら知らせたりしています。

小林:WHILLさんは周囲をエモーショナルに巻き込んでいく力が他のメーカーとは違うと感じています。やはりハードウェアのベンチャーの中でも、ものができりゃいいって発想もあったりするんですよね。その辺りWHILLさんは全然違う。そこにWHILLさんのものづくりに対するこだわりが見えますね。次世代のものづくりベンチャーだなと感じます。

 

WHILLをインフラにしていきたい
小林:これまでModel A、Model Cをしっかり製品化されてきましたが、別の次元でまさにパーソナルモビリティという世界も広げていくのだろうなと私は期待をしています。車椅子というカテゴリを超えて、そういった今後の展望をお聞かせいただけますか。

平田:僕たちは、WHILLをインフラにしようとしてます。今後、高齢化と長寿命化に伴い、長い距離が歩くことが困難な方は飛躍的に増えることが予想されます。WHILLをインフラのように当たり前に使うことができれば、もっと多くの人の移動が楽しくスマートになるのではないかと考えています。実際にもう街に現れてきているシェアリングサイクルのようなイメージで、普通に人々が乗って生活している未来を作ろうとしていて、そのためにいろいろ考えていますね。自動運転などこれまでの車椅子にはなかった機能の追加も、近い将来の実現を目指しています。

小林:自動運転などは法規制との兼ね合いもあるかもしれないですけど、そういったものとも折り合いをつけながらの発展になっていくんですね。

平田:法規制は一番守らないといけないものなので、その中でどれだけできるかということですね。理想的には、法規制が変えていけるほどの影響力のあるプロダクトにしていきたいですね。そのためにはやはり安全性も高めていく必要があります。

小林:車椅子というカテゴリーではなく、パーソナルモビリティという乗り物のシェアリングの実証ができる場所というのはあるのでしょうか?

平田:これからですね。まだプレイヤーがいないので、僕たちが開拓するしかないという状況ですね。そこにファーストプレイヤーとして前例を作ることが今の我々のミッションだと考えています。

 

(関連情報)
株式会社浜野製作所HP
http://hamano-products.co.jp/

写真:Kenji Kagawa