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ノーマライゼーションとは何か? その意味、理念、歴史を解説します

特に、福祉用語として使われていることが多い「ノーマライゼーション」という言葉。なんとなく聞いたことはあるけれど、実際どんな意味や理念、歴史があるの? 今一つわからないことも多い。

そして、今の日本のノーマライゼーションはどこまで進んでいるのか、車椅子ユーザーにとってのノーマライゼーションとは? またその課題や問題点と、今後の展望についても調べてみました。

ノーマライゼーションとは? 定義とその考え方

ノーマライゼーションという言葉はどのように定義されているのでしょうか。その言葉に含まれている意味合いについても知ることで、どのような考え方なのかをつかんでいきましょう。

 

厚生労働省のノーマライゼーションの理念

厚生労働省が提唱しているノーマライゼーションとは、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」という理念です。

英語で「normalization」とは「標準化・正常化」、または「常態化」という意味があり、「以前は特異と思われていたことがあたりまえの状態になっていること」、という意味を含んでいます。これを理念としてのノーマライゼーションに当てはめる場合、「障害がある人を変える」という意味合いではなく、彼らがありのままで健常者とともに生活ができるように「周りが変わる」という視点も持ち合わせています。

 

ノーマライゼーションの身近な例 車椅子利用の場合

車椅子が走行しやすいように、段差や障害物を減らすバリアフリー化があらゆる場所で進んでいたり、車椅子利用者専用のトイレ、エレベーターの整備がされていたりと、いつしかそれがあたりまえの世の中になってきました。これらもノーマライゼーションの理念が浸透してきた結果です。

さらに2017年からは、車椅子に乗ったまま乗車ができるユニバーサルデザインタクシーサービスが始まるなど、さまざまな場所でノーマライゼーションが具現化しています

 

バリアフリー、ユニバーサルデザインとの違い

バリアフリーとは、「高齢者や障害者が社会生活を送る上で障壁となるものを取り除くこと」で、建物などの段差や仕切りをなくし、車椅子などが走行しやすいようにすることを指します。現在では設備だけにとどまらず、社会制度、人々の意識、情報など、さまざまな障壁を取り除くことも意味しています。

一方、ユニバーサルデザインとは、「はじめから、誰にでもやさしい商品や環境であるためのデザイン」のことで、障壁をなくすという発想ではなく、あらかじめ障壁のない設計をあたりまえにしようとする考え方です。双方とも、ノーマライゼーションの一部となる概念です。

 

ノーマライゼーションの歴史 北欧デンマーク発祥

この「ノーマライゼーション」という言葉が誕生した背景には、ある人々が対等に扱われなかったという出来事がきっかけとしてありました。その現状を改善しようと、一人の男性がノーマライゼーションという理念を誕生させます。

 

ノーマライゼーションの父、N・E・バンク-ミケルセンが提唱

ノーマライゼーションの理念が発祥したのはデンマークです。

時は第二次世界大戦終了後の1950年代当時、知的障害者の施設の中で、彼らが非人間的な扱いを受けていることを知ったその親たちによる、この状況を改善しようという運動からはじまりました。「どのような障害があろうと一般の市民と同等の生活と権利が保障されなければならない」という考え方N・E・バンク-ミケルセンという一人の行政官によって提唱され、1959年にデンマークの法律として成立します。

 

ノーマライゼーション8つの原理

スウェーデン知的障害児者連盟のベンクト・ニィリエは、そのノーマライゼーションの理念を整理し、「社会の主流となっている状態にできるだけ近い日常生活を、知的障害者が得られるようにすること」として以下の8つの原理を定義しました。彼がこれをアメリカにも広めたことで、この考え方が世界中に広まることになります。

・1日のノーマルなリズム

・1週間のノーマルなリズム

・1年間のノーマルなリズム

・ライフサイクルでのノーマルな発達的経験

・ノーマルな個人の尊厳と自己決定権

・その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障

・その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利

・その地域におけるノーマルな環境水準

日本におけるノーマライゼーションの取り組み

 日本では、1981年「国際障害者年」をきっかけに認識されはじめ、これまでに政府が施策を実施してきました。また、民間でも多くの法人などが取り組みを進めています。

日本ノーマライゼーション協会

社会福祉法人ノーマライゼーション協会とは、「すべての人の人権を基軸としたノーマライゼーション社会の実現」を理念として、障害者、高齢者の日常生活などを支援するための事業や施設の経営・運営を行っている機関です。

一例として大阪では、ハニカムと呼ばれる指定障害者支援施設で、さまざまな日常の要素を取り入れた障害者の主体性や共同性を支援するプログラムを、日々実施しています。

 

政府の取り組みや法律は? 7か年戦略や障害者基本計画

政府としては、「ノーマライゼーション7か年戦略」を掲げて、平成8年から14年までの間に、障害者の社会的自立やバリアフリー化の促進などに関して、具体的な目標値を掲げた施策を行ってきました。

日本の法律では、「障害者基本法」というものが定められており、ノーマライゼーションの理念に基づいた施策を推進。これに基づき、内閣府に設置された「障害者政策委員会」という機関によって、「障害者基本計画」の策定が行われてきました。これはノーマライゼーションの価値観を、国民が共有できるようになるための視点や方向性の提示、具体的な施策を示す計画です。

 

教育現場におけるノーマライゼーション

教育の現場においてもノーマライゼーションが浸透しはじめており、「どのような背景をもつ子供・大人もともに学ぶ仕組みや環境が整った教育システム(インクルーシブ教育システム)」が世界的に関心を集めています。

インクルーシブ教育システム

英語のインクルーシブ「inclusive」は、「あらゆるものを含めた」という意味合いがある言葉。日本における「インクルーシブ教育システム」は、障害のある幼児・児童への配慮や学びの選択肢を増やし、障害の有無に関わらず、可能な限り共に教育を受けることができるシステムとされています。さらには個々のニーズに応えた指導を受けることもできるようになっています。具体例としては、保育現場に専門家が訪問し、障害のある子供の指導を支援する「保育所訪問支援」などが挙げられます。

海外においては、障害児だけではなく、英才児、ストリートチルドレン、働いている子供、過疎地の子供、言語的・民族的・文化的に少数派の子供などが含まれ、まさにどのような子供も、ともに学ぶという考えが強いようです。

福祉の現場における ノーマライゼーション

福祉の現場では、7か年戦略がはじまった1990年代はじめより、先駆的事業者によってグループホームの先駆けとなる取り組みがはじまるなど、ノーマライゼーションが少しずつ広まり、事業化してきました。

 

看護師国家試験(国試)ではノーマライゼーションの理解が必須

看護師国家試験出題基準にも、ノーマライゼーションに関する部分が組み込まれており、医療現場においても大切な考えと位置付けられていることがわかります。基本的人権の擁護、社会保障、高齢者の生活の質の保障というような場面において、その理解が必要とされているようです。

 

障害者福祉・高齢者介護におけるノーマライゼーション

障害者福祉・高齢者介護におけるノーマライゼーションにも注目してみましょう。

グループホームと呼ばれる、いわゆる大型の老人ホームとは異なった位置付けの住居が続々と増えています。定員は10人以下程度で、障害者や高齢者が世話人などから支援を受けながら共同生活を営み、日中は職場などに通い、帰宅後は家庭的に過ごします。

障害者が働く場所を提供する企業やNPO法人なども増えており、支援者と一緒にカフェなどを営み、社会生活を送ることができる場所がうまれています。

 

ノーマライゼーションの課題、問題点

これまでノーマライゼーションに基づいたさまざまな取り組みが行われてきたわけですが、いまだに障害者に対する、「障害があり、助けが必要な人」という視線があることは否めません。

例えば、車椅子ユーザーが直面する悪路などの物理的なハードル、「車椅子に乗っている人」として見られる心理的なバリアはまだまだ存在し、これらは今後取り除かれていく必要があります。

車椅子に乗らない障害者や、高齢者、子供たちに対する課題もそれと似ていて、まだまだ本人たちの能力や可能性を高められるようなノーマライゼーションに基づいた価値観が一般化されていないというのが現状です。

 

自立し、共生できる世界を目指して

ノーマライゼーションというと、障害者、高齢者、というキーワードがどうしても結びつきますが、私たちは誰もが何かしらの不便や問題を抱えています。しかし、それを見ないふりをしたり、押しとどめたり、無理に変えようとしても問題の解決にはなりません。

問題を抱えながらも、「誰もが幸せに暮らせる社会を築く」という視点を養うことが、今、私たちに問われています。ごくあたりまえの視点で、もし自分がその立場だったらどうあってほしいかを考えることが、ノーマライゼーションといえるのではないでしょうか。